2021/09/04

紙の街ルッカの世界最大のペーパーアート展にて功労賞(Carrer Award)受賞しました(後編)

今回のコラムでは、世界的なコロナ問題の中でのルッカの国際展示会に参加するまでの経緯と、制作した「約1000種類の和紙に照らされた茶室」、展示している自身の作品や各国から出展された作品などをご紹介したいと思います。
※(前編)の続きになります。

国際色豊かな共同アトリエ

さて、そこから美しい多様な和紙を引っ提げてフィレンツェから約90km離れたルッカに通う事になりました。
壮大な1300平方メートルの広さのcavarelliza (馬の調教場跡)内に、大きな彫刻像を作る8組のアーティストが選ばれ、約一ヶ月〜数週間ルッカに滞在し、それぞれの作品を制作していました。
各自違った国(イタリア、アメリカ、スェーデン、トルコ、チリ、スペインetc)からやって来て、同じ空間を共有し隣同士で作業しながら、お互いの作品が出来上がっていくのを見ながら、お互いの技術を分かち合い助け合う姿もありました。

8人のアーティストが巨大な紙の彫刻を制作した会場(cavallerizza )

日本人の豊かな感性から生まれた「和紙」の世界

このビエンナーレに参加しているアーティストたちは紙の街ルッカから提供されたダンボールやチラシ、新聞紙など普段身の回りにある「紙」を使ってアート作品を制作している人たちばかりで、日本の和紙そのものを見た事がないアーティストもいました。
日本から1000種類を超える和紙が届いた事を聞きつけ、アーティストやビエンナーレのスタッフたちも目を輝かせて興味津々で近づいてきました。
届いた土佐和紙を広げ、薄い和紙、厚めの和紙、ザラザラした紙、ツルツルした紙、染色した紙、穴が空いた落水紙など美しい風合いの紙を次々に見てスタッフから感嘆の声が上がっていました。
普段触っているダンボールや新聞紙とは全く違い、一枚一枚が「アート作品」のように洗練されている和紙に日本の紙の文化の厚みを感じアーティストたちも圧倒されているようでした。

約1000枚の和紙を使った「和紙の茶室」

ビエンナーレのスタッフによって「和紙の茶室」の構造は着々と組み立てられ、後は和紙を貼るだけという段階で会場に呼ばれました。
日本の障子を彷彿させる枠組みが作られ、そこに色別に分けた和紙を グラデーションを統一させながら貼っていきました。
この「茶室」を見る事で様々な魅力を持つ「和紙たち」を発見してもらえる様に出来るだけ様々な種類の和紙で飾り、真ん中には本物の畳(ビエンナーレがボローニャで購入)を置いて仕上げました。(この茶室の中で茶道のデモンストレーションを開催する予定です。)
後ろ側に照明を置いて照らし出された和紙たちに、見た人たちは写真を撮ったりビデオを撮影したりしてなかなか見ることのない珍しい紙の数々に見入っていました。

和紙の茶室の制作風景

様々な種類の和紙を使った茶室

和紙を使ったWashi-Arteの作品(手前)と茶室

コロナ問題を乗り越えて世界各国からアーティストが集まった「開会式」

8月1日、全世界21カ国からコロナ問題を乗り越えてルッカに集まったアーティスト達(イタリア、フランス、ベルギー、アメリカ、イギリス、ブルガリア、ドイツ、ブラジル、イスラエル、ハンガリー、トルコ、ロシア、メキシコ、スペイン、チリetc)がこの世界的な紙の祭典のオープニングセレモニーに参加しました。
中にはハンガリーから13時間以上車を運転してやってきたアーティストもいました。

講演会「フォーカス・ジャパン」

オープニングデーには日本/和紙にスポットを当てた「フォーカス・ジャパン」という講演会が開催され、ビエンナーレから和紙を使った作品と和紙について話をしてほしいとお願いされていたので、話す内容を準備して講演に参加しました。
講演当日には日本美術史に詳しいパオロ・リネッティ氏、和紙を使った修復についてお話ししたクラウディア・ジョストレッラ女史と共に、私は自身の和紙を使った「Washi-Arte」の紹介、土佐和紙のお話やビエンナーレで制作した「和紙の茶室」のお話などをさせて頂きました。
会場では「美しい女」が光が当たると「鬼」になる私の和紙を使った作品に驚きの声が上がり、この講演用に用意した約1500枚の和紙の紙見本に感嘆の声が上がっていました。
講演後ステージ上に置かれた紙見本を会場にいたアーティストたちが触りに来たり、彼らから多くの質問を受けたことにより、和紙に対する関心の高さを実感しました。
(参加者の多くがイタリア国外から来たアーティストたちだった事もあり、講演会ではイタリア語でお話しし、イタリア語〜英語の同時通訳がついていました。)

会場からため息が上がった1500種類の和紙見本の一部

和紙を使った作品の紹介

多様な「紙」のコンセプチュアル・アート

この世界最大のペーパーアートの祭典では世界中から「紙」を愛するアーティストたちが集い、それぞれ独自のコンセプトを持って作品を展示しました。
その中でも目を引いたのがダンボールなどの紙で作った巨大な彫刻たちで、スェーデン人のアーティストが作った高さ4mを超える巨大な牛や、アメリカ人アーティスト、エンマ・ハーディの「少女と怯える犬」などその大きさやリアルな表現に目を見張るものがありました。
イスラエル人アーティストの古い本のページを使ったどこかセンチメンタルなシルエットが浮き上がる作品や、イタリア人アーティストのアール・ヌーヴォー的なペーパーカットの作品。メキシコ人アーティストの焼けた紙の表面に自身の肉体の痕を残す作品などさまざまな作品などがあり、「紙」という素材が正に多様な表現の媒体になっていました。
展示会は各作品の説明を聞くこともできる様にオーディオガイドも用意されていました。

高さ4mになる迫力のある牛 Crossing Bordersセバスチャン・ブロンクビスト(スェーデン)

ルッカの街の中央広場となるサン・ミケーレ広場に置かれた餌を与える少女と怯える犬「Risky Reward」エンマ・ハーディ(アメリカ)

まるで巻物の様なイタリア人アーティストのカットワーク作品

最後にビエンナーレから「indoor(屋内展示作品)」「outdoor(屋外展示作品)」「ファッション」「パフォーマンス」の各部門から1人アーティストが選ばれ贈られる功労賞(Carrer Award)をindoor部門で受賞致しました。

世界最大のペーパーアートの祭典「ルッカ・ビエンナーレ」は9月26日まで開催されています。
ルッカ・ビエンナーレHP