2021/08/30

紙の街ルッカの世界最大のペーパーアート展にて功労賞(Carrer Award)受賞しました(前編)

今回のコラムでは、世界的なコロナ問題の中でのルッカの国際展示会に参加するまでの経緯と、制作した「約1000種類の和紙に照らされた茶室」、展示している自身の作品や各国から出展された作品などをご紹介したいと思います。

オペラ界の巨匠ジャコモ・プッチーニの生まれた街/製紙業の街

「蝶々夫人」や「トゥーランドット」などの名作を生み出したオペラ界の巨匠ジャコモ・プッチーニが生まれた街「ルッカ」をご存知でしょうか?
この街は1500年代に作られた長さ4kmに及ぶ城壁が完璧な形で残された歴史都市で、その中心街にはプッチーニの生家や100の教会があるとも言われています。
しかしそのルッカの街がヨーロッパ屈指の製紙工業の街であることは実はイタリア人にもあまり知られていません。
この街ではティッシュ(国内の80%、ヨーロッパの17%)やダンボール(国内の40%、ヨーロッパの5%)など生活用品として使われる紙が多く生産され、海外に輸出されている紙は年間約70億ユーロと街の経済を大きく支えています。

ルッカの城壁

 

「紙がアートになる」世界最大の紙の展示会

その街で2004年から始まった世界最大のペーパーアートの祭典「ルッカ・ビエンナーレ」は、ルッカの製紙会社や銀行がスポンサーとなり「紙がアートになる」をコンセプトに「indoor(屋内展示作品)」「outdoor(屋外展示作品)」「ファッション」「パフォーマンス」と各部門で国内外からアーティストを招待して開催される国際展になります。
第10回を数える今回の展示会には世界中から約500人の参加申し込みがあり、そこから第一、第二審査で39人のアーティストが選ばれ、8月の展示会に参加しました。
その最終ファイナリストの1人として私の和紙を使った作品も選ばれ、この展示会に参加することになりました。

コロナ・ウィルスにより1年延期

2020年8月〜9月に開催予定だった展示会はコロナ・ウィルスのパンデミックによりイタリア全土の都市封鎖が決行され、イタリアではほぼ全ての文化活動が中止となりました。そこでビエンナーレもとりあえず2021年に延期となり、世界中から召喚していたアーティストたちも各国での感染状況、渡航環境の様子を見ながら待機する事になりました。展示会自体の開催の先行きも見えないままで2021年の5月まで不安定な状態で準備を進める事になりました。

招待国は「和紙の国・日本」

実はビエンナーレでは、今回の記念すべき第10回に、世界に誇る「和紙」を生み出した国、「日本」を招待国に選んで、その「和紙」を開催中に紹介したいと考えていました。
そこでファイナリストに選ばれたアーティストの中で和紙を本格的に使っていたのは私だけだったこともあり、ビエンナーレ側から「和紙の茶室」を作りたいという相談がありました。

様々な和紙で飾られた「和紙の茶室」

ビエンナーレの話では、当初、日本から建築家のチームが参加して折り紙で組み立てた家をビエンナーレに展示する予定だったが、コロナの影響で来れなくなってしまったので出来れば別の形で作りたい、可能ならば招待国が日本であるというのを感じさせるような「和紙を使った茶室」を作れないか考えているという内容でした。
この相談を受けたのは開催予定から三ヶ月を切った5月始めでした。
そこで少し考えて、この茶室の壁を様々な種類の和紙で覆って、光で透けるようにすれば和紙特有の光を通す美しさを見てもらえるのではと考え、雛形を作成して提案しました。
そのアイデアがオーガナイザーから気に入られ、早速和紙の確保に日本側に協力を求める事になりました。

 

沢山の和紙を使った「和紙の茶室」のモデル

日伊の共同作品

私の地元である高知の「いの町紙の博物館」と和紙の輸出会社「森木ペーパー」さんに連絡を取り、小さな切れ端や倉庫に残った使わない和紙を送ってもらえませんか?とお願いしましたところ、慌ただしい形でのお願いだったにも関らず、土佐和紙の職人さん4名(田村寛さん、尾崎伸安さん、田村春彦さん、井上手漉き工房さん)、高知の3社の製紙会社(内外典具帖紙、鹿敷製紙、モリサ)から和紙を提供して頂ける事となり、7月始めには土佐手漉き和紙を含め越前和紙の見本帳など約1500種類の美しい和紙が届きました。(後半に続く)

高知から送られて来た土佐和紙

※次回は作品制作や開会式の様子、海外アーティストの作品などをご紹介します
ルッカ・ビエンナーレHP