2020/08/06

ミラノ発!「マスク」アラ・モーダ(8月6日)

ボルサリーノの革命

イタリアのコンテ首相は去る4月27日に首相令に署名、翌5月4日から新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環として、外出時のマクスの着用を義務付けました。

元々マスク着用の習慣のなかったこの国でありながら、市民の多くは急速にマスクをつけるようになり、イタリアでは83.4%の人がそれに従いました。マスクはつけている本人だけではなく、その周りの人も保護するかもしれないという考えが浸透したのか…。むしろ、いきなりコロナ禍に襲われ「死」への恐怖から着用比率の増加に繋がったというのが正しいでしょう。

現在、室外においてソーシャルディスタンスが保たれている場合のみマスク着用義務が解除されているにも関わらず、今も変わらずマスクを着用しているのは、まだみんなトラウマがあるんですね、実は。手放せないんです。

しかしタダでは起きないミラノ人。外出時にあの忌々しい単色の不織布マスクではコーディネートに合わないと考えたのか、早速、自分自身のその日の着こなしに合わせたファッションアイテムの「カバーマスク」が急速に市民権を得るようになりました。

ミラノのアーケードの中に店を構える老舗帽子店「ボルサリーノ」は1857年に創業し、ミラノのこの場所には1883年に開店しました。アーケード自体が完成したのは1877年なので、その直後にオープンしたということです。まさに近代ミラノの歴史を見てきた生き証人でもあります。

そして創業以来160年以上たった今でも、当時の機械と木製型を使った職人技。職人のプライドを賭けたクオリティーと、それに準ずる値段となっています。

その老舗帽子店の160年の歴史に革命が起こりました。

ボルサリーノは1880年代に起こったアーツ・アンド・クラフツ運動(美術工芸運動)の世界観に触発されて、本社のあるアレクサンドリアの工場でマスクのコレクションを作り始めました。

ボルサリーノマスク、なんと、55ユーロ(約7000円)

この運動の理念は「労働の喜びが生きていた中世の社会に習って、伝統的な職人技を見直し、芸術的な手仕事による美しい日用品や生活空間をデザインし、また供給することで、人々の生活を向上させる」という考えとなっています。

光沢感が美しい草花柄のジャガード織素材、ゼブラ柄、無地の物だけでなく、フィン・デ・シエクル・アート(世紀末芸術)に影響された幻想的、神秘的、退廃的なデザインまで、多岐に渡ります。

ゼブラ柄と花模様の組み合わせは、かなり攻めています

全てのモデルは2層のポリエステル・マイクロファイバーを使用しており、洗って再利用ができるのが特徴です。

あくまでも「ファッション・マスク」なので医療用として使用できませんが、政府の指示としてはマスクが無い場合は、バンダナやスカーフで口と鼻を覆っても良い、ということなので充分に対応でき、むしろその方がミラノ人のファッションへのプライドが保たれるかもしれません。

マスクの歴史

マスクの歴史はとても古く、現在日常的に使われているものは昔と全く異なった物でした。紀元前100年くらいに、ヤギの膀胱を使って口に当てたのが始まりではないかと言われています。

1656年に描かれたローマのペスト医師

これは17世紀にフランスで考案された物で、フランス国王をはじめ多くのヨーロッパの王族を治療した医師の防護服です。香料入りのワックスを塗ったコート、ブーツと繋がる丈の短いズボン、シャツの裾はズボンの中に入れ、ヤギ革製の帽子と手袋を身に付ける。さらにペスト患者を直接触らないように杖を持っていました。

かなり異様な風貌だったのはマスクの形状ため。ペスト医師は飛沫を防ぐためにゴーグルとマスクを着用していましたが、マスクの鼻の部分は長さ15センチのクチバシのように見え、先端には香料を入れていました。呼吸をするための穴は鼻腔近くに2箇所のみ。ハーブの香りを殺菌がわりにしていたそうです。

ヨーロッパ中の医師が同じ格好をしていたにも関わらず、このインパクトの強さは特にイタリアで象徴的になり、ベルガモ発祥の即興喜劇「コメディア・デラルテ」にもこの役柄が登場します。またヴェネツィアのカーニバルでも人気の高い仮装の一つです。

マスクと共に生きる

「マスクして我と汝でありしかな」

俳人の高浜虚子が弟子の送別会で詠んだ句です。
顔を覆ったマスクによって表情は読み取れないが「我」と「汝」の間にある思いは「惜別」なのか「溝」だったのか。

コロナ禍のマスク着用によって顔の半分が覆い隠されてしまい、さらにソーシャルディスタンスによって人々の間に「溝」のようなものも出来てしまった。表情豊かなイタリア人にとっても、自分の思いがストレートに伝わりにくく、もどかしい気持ちになっていると思います。

そんな中でも高級食材店「イータリー」の従業員がしているマスクに、彼らの思いをメッセージで書き記しているのが、ちょっとホッコリした気持ちにさせられます。

お客様の気持ちに寄り添うメッセージ

「安心して下さい!笑顔ですよ!!」

(ミラノ/川倉靖史)