2020/10/10

秋のボルドー便り

ぶどう収穫もほぼ終わったボルドーでは、ここ数日朝夕10度くらいに下がる日もあり、少しずつ紅葉が見られるようになりました。

コロナ第2波に見舞われたフランス

夏休みに国内旅行人気の行先だったマルセイユ・エクサンプロヴァンス、また海外領土グアドループでコロナの第2波がきてしまいました。ボルドーも9月感染者が増えましたが、マルセイユ、エクスと共に収まりつつあり、替わってパリ、その後リヨン、グルノーブル、リール、サンテティエンヌが高リスク地域になっています(10月10日現在)。この地域に関してはレストランは営業可能、バーやカフェ、ディスコは現在のところ10月19日まで閉鎖となっています。早めの対策の効果を願うばかりです。

ボルドーのシェフ、フィリップ・エチュベスト氏が10月2日、自らのレストラン「ル・キャトリエム・ミュールLe Quatreme Mur」の前で、同業者たちと共に営業規制に抗議しました。マルセイユとエクスのレストランが再度の休業を強いられ、ボルドーでも閉店時間が早められたことに対してです。デモの多いフランスではありますがシェフたちが行動に移すのは珍しく、力に訴えるのではなく、黒い布を腕につけてレストランの前に立ち、飲食業が危機にあることを伝える強いメッセージでした。

全国の学校ではこれまで通り衛生規定を守りながら授業が行われていて、美術館や劇場、映画館も引き続き開いています。交通機関や一般のお店も影響はありません。

ボルドー、秋の実りの季節

今日は左岸メドックと、右岸サンテミリオンの様子を、秋の味覚と合わせてお伝えいたします。
気温が高かった春に続き、暑くて雨の少なかった夏。今年のぶどう収穫は例年に比べて2週間から3週間早まりました。ボルドーは赤ワインのイメージかと思いますが、街の中心から南西になるグラーヴ地区やそこに含まれるペサックレオニャン地区では辛口白ワインも造られていて、白の品種は8月中旬から収穫されました。赤ワインは右岸の主要品種メルローが9月中旬から、それに比べ成熟の遅いカベルネソーヴィニョンの収穫が10月上旬の今終わろうとしています。

今年は9月18日収穫体験ツアーを催行することができました。直前まで日程の確定が難しいのですが、フランス在住のお客様だったこともあり、間際までぶどうの成熟具合とにらめっこ、2週間前に確定しボルドーへお越しいただきました。オーメドックのクリュ・ブルジョワ、シャトーパルーメィ(Chateau Paloumey)での2020年ヴィンテージ収穫の様子をご紹介いたします。

まずはボルドーの主な品種、メルローとカベルネソーヴィニョンの試食から。しっかり甘くなって種が実から離れやすくなりナッツのような味わいならば収穫時。これから狩るメルローに比べて、カベルネソーヴィニョンはまだ早いことが味で分かります。実をつぶしてみるとこの時点では果汁はほぼ透明です。それぞれかごと鋏をもってスタート。実を傷つけないよう横長の箱に入れ、いっぱいになったら運び担当の背負いかごに空けます。

1時間くらい収穫をした後は次の作業、選果へ。一日中腰を屈めて収穫する人たちのことを思わずにはいられません・・・

房から実を外す除梗の機械にかけられ粒だけになったぶどうの実が、振動しながら移動していく選果台に空けられます。人の目、人の手で、まだ残っている茎や葉っぱ、時には虫などを取り除いていきます。

きれいな実だけが破砕されホースを伝って発酵タンクの中へ。ぶどうの持つ酵母の働きによって甘いジュースから次第にワインへと変わっていきます。前日収穫されたものと二日前に収穫されたものを飲み比べてみました。前日のジュースはまだ甘い果汁ですが、二日目のものは早くもワインになりつつあります。ぷつぷつと微発砲でまだ甘みも残っています。(もうすぐ出回るブーリュのお話は後ほど)

 最後に2019年のヴィンテージが眠る樽の貯蔵庫へ。去年収穫されたぶどうのワインが整然と並んだ樽の中でゆっくりと熟成を重ねています。
そしてファーストラベルのシャトーパルーメィ、セカンドのエル・ド・パルーメィ(Ailes de Paloumey)、オーナーのカズヌ―ヴ家がマルゴーに持つシャトーのワインと共に、収穫の人たちと同じランチ「デジュネ・ド・ヴァンダンジューDejeuner de vendangeurs」。大皿からとりわける前菜はじゃがいもサラダ、主菜はローストチキンに人参のグラタン、デザートはフォンダンショコラ、といたってシンプル。まさに大家族の家庭料理です。通常は収穫の人たちと一緒に外で大きなテーブルを囲むところ、今年はコロナ対策で別室でしたが、お洒落なレストランの繊細なお料理とはまた違い、(楽しい!)労働の後のボリュームいっぱいランチを皆さま楽しんでいらっしゃいました。

ボルドー右岸サンテミリオン

次は東側、右岸情報を。
ボルドー市は別名「月の港」とも呼ばれ、ピレネー山脈から流れてくるガロンヌ川が三日月型に蛇行したろころに18世紀港町として栄えました。ガイドブックでもおなじみの水の鏡のブルス広場などある街の中心は左岸(川下に向かって左側)です。

東へ約40km、ガロンヌ川に合流する前のドルドーニュ川の右岸にはサンテミリオンがあります。山がなく起伏が少ないボルドー周辺ですが、サンテミリオンは小高い丘で、丘の上に行くほど石灰質の層が厚い土壌です。主なぶどうの品種はメルロー。カベルネフランも植えられています。昔は千の銘醸の丘と言われたほど。現在でも大小合わせ約800のシャトーがあります。

1999年に周辺のぶどう畑も含めてユネスコの世界遺産になった中世の街並み。村を一周ゆったり歩いても小一時間もかからない小さな村です。12世紀に遡る大きなひとつの岩を切り出して築かれたモノリス(一枚岩)教会を中心に、トリニテ礼拝堂、カタコンベ、村の名前の由来となった僧エミリオンの庵・・・ 8世紀ここでエミリオンが瞑想にふけったと思うと石の歴史を感じずにはいられません。観光局が行うサンテミリオン地下ツアーに参加すると、英語とフランス語の解説つきで見学することができます。内部は写真撮影禁止なので、是非本物を見にいらしてください。

196段の階段をがんばって登ると、鐘楼の上からはサンテミリオンとぶどう畑の素晴らしい眺めが待っています。

そして忘れてはならないのがマカロン。サンテミリオンのマカロンは、今日本でも人気のクリームを挟んだカラフルなものではなく、アーモンドの香り豊かな柔らかめの焼き菓子。1620年以来修道女たちから受け継がれたレシピを守り続け、毎日アーモンドを潰し、昔ながらの方法で一つ一つ手作りされているナディアさんのマカロン。ガデ通りにあるこじんまりした店構えもこのレトロな包装も、ずっと変えないでほしいですね。外国人観光客が大幅に減っている今年のシーズンももう終盤。「早くお客様戻って欲しいですね・・・」と世間話、写真撮影にもゆっくり応じてくれました。普段は外から手を振っても気づいてくれないくらい忙しいそうなのに。励ましあってお店を出ました。

フランス南西部のおすすめ料理

マカロンに続いて食欲の秋、最後にフランス南西部のおすすめ料理をご紹介したいと思います。

ボルドーのしっかりした赤ワインに合うのはやはりステーキ。南に約70km、貴腐ワインの産地ソーテルヌ近くバザスの牛肉や、ドルドーニュ地方はじめフランス南西部の名物鴨のステーキは是非召し上がっていただきたいものです。ぶどうの枝(フランス語でセルマン)を使ってお肉を焼くとそれはそれは良い香りに!冬の間、剪定され畑の脇に積んであるのを見かけるぶどうの枝、夏のバーベキューに大活躍をするのです。

 上は行列ができる人気レストラン、「アントルコートEntrecote」の写真です。着席すると聞かれるのは焼き加減だけ、メニューはお肉のみのレストラン。食べ放題のグリーンサラダとフライドポテトと共に、特製のソースがさらに食欲をそそります。

グルニエ・メドケーヌも通のおつまみ。塩胡椒ニンニクで味付けした豚の胃をぐるぐると巻いて、長時間野菜スープで煮込んだ太目のソーセージ。薄切りにして冷たいままアペリティフや前菜としていただきます。写真映えはしませんが、程よくきいた胡椒とニンニクに肉厚な歯ごたえ、これまたワインが進みます。

また、これからはキノコもおいしい季節になります。セップ茸にジロール茸 ・・市場にも並びますが、フランス人は棒とかごを手に森の中へ。キノコ狩りが大好きです。毒キノコも多いので見分けには充分注意必要ですが、田舎にはたいていどこの村にもキノコに詳しいおじいさんがいるものです。

大西洋に近いボルドーは、アルカッション湾で獲れる新鮮な牡蠣も豊富です。ギュジャンメストラスの港では牡蠣小屋が立ち並び、目の前で開けてくれた牡蠣をいただけます。ワインはアントル・ド・メール(Entre deux Mers)の爽やかな白がおすすめ。週末にはボルドー市内でも、牡蠣の養殖をしている人たちが道端やパン屋の前などに売りに来ます。1ダースとレモン1個買えば週末ランチの前菜に。ボルドー大劇場の脇には牡蠣専門のレストラン「ボワット・ア・ウィトルBoite a huitres」もあります。

クレピネットと呼ばれる、味付けした豚ひき肉を網脂で包んだ楕円形のソーセージと一緒に牡蠣を食べるのもボルドー流。お店によっては普通のソーセージが1本出てくるところもあります。

お菓子はすでにご紹介したカヌレやマカロンの他、ぶどうの木セルマン型チョコレートやメドックのノワズティーヌ(ヘーゼルナッツにチョコレートをかけたもの)がコーヒーのお供にぴったりです。

最後に、忘れてならない季節もの。もうしばらくするとブーリュ(Bourru)と呼ばれる発酵途中のワインを見かけるようになります。この収穫直後の短い期間しかありません。「Le Bourru est arrive ! ブーリュ入荷!」の貼り紙を見ると、秋だなぁと感じます。ガスが出ているので密閉された蓋ではないため持って帰るときは注意が必要。まだ甘くて炭酸が心地よくついつい飲みすぎてしまいますが、酵母は活動中、お腹のためにも飲みすぎには注意です。

今仕込まれているワインが出来上がるのは2022年。さらに年月を経た変化を楽しみたいワイン。2020年ヴィンテージを飲みながら、この年は大変だったね、でもコロナを乗り切ったね、ときっと後々言うことでしょう。早くその日が来ますように。
世の中が止まってしまったかのように見えたロックダウン中も、ぶどうたちは確実に育っていました。自然の生命力をお手本に、お客様をご案内できる日を辛抱強く待つばかりです。

( ボルドー/塩津理代)