2020/08/03

アカデミア美術館の輝くアイドル「ダビデ像」

8月に入りました。イタリアは連日雲ひとつない晴天が続き、気温も37度越えといった真夏日和となっています。

この暑さに誘われ海に行きたくてうずうずしていたイタリア人たちが、7月中ばごろから海辺に通い始めました。
浜辺に沢山のイタリア人が寝転がる様子がテレビに映しだされると、まるでロックダウンという異常事態がなかったかの様にも見えます。

イタリアの現在(8月1日時点)の状況は全国の感染者数12457人、1日の感染者増加数は295人と日本と比べても非常に低い数値で収まっています。

フィレンツェの美術館開館状況

コロナ対策が心配される中での手探りの経済活動開始(5月半ば)から約二ヶ月が経ちました。去年の同じ時期に比べても観光客の数は1割程度と言われフィレンツェでもまだまだ殆どのホテルやレストランが休業したままといった現状です。

そんな中ですが、約80館を数えるフィレンツェの博物館/美術館/教会の多くがコロナ対策をした形で開館し始めましたのでその状況もお知らせいたします。

・ウフィッツィ美術館、アカデミア美術館などの国立美術館は17館中11館開館

・ヴェッキオ宮殿など市立美術館は6館開館(9館中)

・大学内/科学関係の美術館4館開館(8館中)

・教会関係13館(14館中)

・フィレンツェ周辺の博物館10館(11館中)

・その他の美術館15館(21館中)

アカデミア美術館へ

さて、先日イタリア人の友人に案内して欲しいと頼まれアカデミア美術館をすごーく久しぶりに見学してきました。(フィレンツェ人が日本人に案内を頼むのも不思議な感じですが。。。)

アカデミア美術館の新しい入館規制は以下の様になっていました。

-開館時間は9:00~18:00

-入場制限 館内には65人まで

-マスク着用

-入館前の手の消毒

-体温検査

-入館する前に他の入館者との距離を保つためのアプリケーション(人が近づくと感知してバイブレーションで知らせる仕組み)を携帯にダウンロードして下さいと言われました。

-ガイド付きの観光はガイド一人につき二人までのお客様、もしくは家族であれば4人まで

アカデミア美術館は通常のこの時期なら長蛇の列ができていて予約なしでは何時間も待つ事になるのですが、この日入り口には誰も並んでおらず土曜日にも関わらず予約なしでサクッと入れました。館内は国内旅行者のイタリア人たちがまばらにいる様な感じでした。

元々アカデミア美術館は、世界で最初に生まれた公立の美術学校という歴史を持つアカデミア美術学校付属の美術館として開館しました。
美術全般の技術を学ぶ学生にフィレンツェが生んだ巨匠たちの作品を参考にしてもらおうと(贅沢な話ですね) 1786年に開館し、現在でもすぐ隣にある美術学校の学生たちは無料で見学する事ができます。(そういう私も実はこの学校を出た学生の一人です。)

国立アカデミア美術学校の入り口

誰もいないのでスイスイ入れたアカデミア美術館の入り口

アカデミア美術館に入館するとまず目に入るのは、16世紀から17世紀にかけてフィレンツェで活躍したオランダ人彫刻家ジャンボローニャ の「サビニの女の略奪」。
この作品こそ二次元の絵画では表現できない、3次元の彫刻だからこそ出せる魅力が存分に盛り込まれた傑作だと思います。

 

表と裏という概念がない 360度どこから鑑賞しても美しい作品です!

3体の肉体が回転しながら上昇していく様なピラミッド型の構成になっており、安定感がありながら、動きもあるダイナミックな作品です。
ぜひアカデミア美術館に来て、作品の周りをぐるりと回りながら皆さんのベストアングルを見つけてもらいたい作品ですね。

この「サビニの女の略奪」が展示された部屋の壁には1400年代ルネサンス期の作品が展示されています。

ボッティテェルリの小作品「海の聖母子」


貴重なフィリッピーノ・リッピとペルジーノの共作「十字架降下」

ドメニコ・ギルランダイオの「3人の聖人」

フィレンツェの15世紀の経済バブルの様子が垣間見える結婚式の様子を描いた
ロ・スケッジャの「アディマーリ家の長持ち」

ミケランジェロの傑作ダビデ像

すぐ隣の部屋に入ると左右が広々とした廊下の様な部屋の奥に輝くダビデ像が現れます。
ダビデ像の前には左右にミケランジェロの未完成の作品が並びまるでダビデを守る衛兵の様にも見えます。

この効果的な演出は、19世紀の建築家エミリオ・ディ・ファブリス(フィレンツェの大聖堂の正面装飾をデザインした建築家)のもので、アカデミア美術館は中世の教会だったサン・ニッコロ・ディ・カファッジョーロを改装し、内部の最も重要だった場所(身廊と翼廊が交差する部分)にダビデが配置されました。

 

さらにファブリスは、ダビデの頭の上に光が降り注ぐ様にと古い丸天井をガラスの天井に作り替えました。

このガラスの天窓から入る太陽の光を全身に受けたダビデ像の若い肉体は神々しく、イタリア人の友人(彼女はダビデを始めて見たそうです)は彼氏を傍にダビデをうっとりと見惚れていました。

未完成作品に残るミケランジェロの痕跡

現在7点のミケランジェロの作品を所蔵するアカデミア美術館は、ミケランジェロの作品の世界最多の所蔵数になるそうです。ダビデ以外にも4つの「囚人」の像と「聖マタイ」、「パレストリーナのピエタ像」があり、ダビデ以外は全て未完成作品になります。

未完成の作品は、完成している作品とは違って、作品が生まれる途中段階、ミケランジェロがどのようにノミを入れながら彫り進めていたのかが分かる非常に貴重な資料とも言えます。

 
最初は先頭が尖ったノミを使い大まかに大理石の塊を取り除いていきます。

 

その後、先が歯のような形の櫛歯ノミを斜めに傾け形を細かく成形していきます。

そして最後は櫛歯ノミでできた細かい溝を平ノミを傾けて表面をなぞるように彫り出来るだけ滑らかにしていきます。

この彫刻技法はルネサンス期から(恐らくギリシャ時代から)変わっておらず、現在でもすぐ隣にあるアカデミア美術学校の学生たちも同じ方法で大理石彫刻の技術を学んでいます。

美術館の芸術作品は、その作品が展示された空間の演出や、芸術家の残したノミの跡の観察まで、遠くからそして近くから鑑賞する事で様々な視点から作品を堪能することができます。(これは画集では味わえない作品の魅力ですね)
一日も早く皆さんが美術館に戻って来れる日を願って。。。